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mein Erbe

04.09.23 エルメスの歯

Disrupted-in-Schizophrenia-1 (DISC-1): mutant truncation prevents binding to NudE-like (NUDEL) and inhibits neurite outgrowth.(Ozeki, et al., 2003)

「神経」という言葉と「精神」という言葉は、とても近いようでいて、科学的には全くもってまだまだその距離は遠い。 神経というのは身体にある物体で、言わばハードウェアなのに対して、精神は形があるわけではない。ハードウェアに乗っかっているソフトウェアと言うことができる。
そのハードとソフトの関係性について以前から研究されていることは周知の通りで、脳の中の信号伝達は電気パルスが神経細胞ネットワーク、 いわゆる神経回路を通ることでなされていることは視覚における研究や海馬での記憶の研究で進められている。その一方で、その回路構成要素である神経細胞が、 どのようにして神経回路として機能しているか分子的なメカ二ズムが研究されている。よく知られているシナプスからグルタミン酸やらGABAといった神経伝達物質が放出されて、 信号として伝わる現象が起こっているわけで。
しかし、役者はもちろんこれだけじゃない。グルタミン酸やらはどこから来るのか? もちろん、 血管から流れてくる材料を使ってそれを合成する酵素が必要になってくる。細胞の機能中心である細胞体から、シナプスから放出するためにそこへ運ぶためのシステム (微小管モータータンパクとか)も必要になる。起こっている現象1つ1つが緻密な化学的現象により制御され、そのほとんどはタンパク質とかペプチドの相互作用で起こる (肝心の活性化とかはリン酸化やから微妙に違うか)。全ての共通項を書き出すとこんな感じになるんやろうけど、ハードウェアの仕組みとしてはこんなところじゃなかろうか。 しかも、これらが全てタンパクとDNAの相互作用(つまり遺伝子からRNA、タンパクが作られ・・・という流れ)で完結しているところがすごい。 このハードウェアの仕組みから一体どうしたらこんなソフトウェアの機能を持たせることができるようになるのか?

つまりは、アプリケーションプログラムが実行可能になるために必要な「OS」こそ何なのか? そこのところはまだまだこれからの研究対象やと思う。 しかしもちろん分かっていることがないわけではない。精神を科学で語る上では必ずヒトの病気を基本にして考えなければならないのが、他の実験系と根本的に違うところやと思う。 実験動物は気分を口で説明してくれないから当然っちゃあ当然やろね。中でも有名なのが神経疾患の統合失調症(Schizophrenia)、いわゆる「精神分裂病」だと思わわる。
ソフトウェアのコードが書き間違っていた結果の異常ではなく、ハードウェアの異常が機能に影響を与えていることを示すいい例で、 この疾患と同じ表現型を示すマウスでは、GABAを放出する二ューロンに欠陥があるとかないとかでGABAで検索をかけるとよく出てくるけど、 冒頭でも書いたDISC-1という遺伝子がコードしているタンパク質が、この疾病にクリティカルに効いていることが示唆されている。これってやっぱりスゴイことよね。 精神と神経を結ぶ、最も大事なネジの1つということなんやから。たった1つの分子によって病気があるかがわかってしまう、ある意味怖いことでもあるけど。
そのDISC-1の研究をされている澤先生が発表しはった会場で、僕はたまたまPC補助係だった。目の前には澤先生のパソコンがあり、 その先にはスクリーンに投射されたディスプレイの画が。じ〜っとパソコンのディスプレイを見てた。画像があまりにもきれいすぎて見入ってしまった。 RNAiを大脳皮質にエレポレでやって、見事にRadialに動く二ューロンの神経突起がうまく伸びてない様子を見せてはったけど、緑(おそらくコンストラクトと一緒に発現させたGFP) とPIの赤がめっちゃきれいやった。終わってから(PC返却係の特権で)質問したかったのに、したかったのに!! 先返さんといてよ! コングレ!

その帰りには中華のコース料理を梅田で食べた。19時すぎに店に入ったと思ったんやけど、店を出たら22時やった。 あの2人といるといつも何かしらおもろいことが起こってくれる・・・。過マンガン酸カリウムを口に入れると歯のエルメス質が溶けて歯がボロボロになってしまうらしい・・・って、 エナメル質だろ!

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